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 良い釣りってなんだろうね。

 故今西錦司は、『釣りの一日』の中で、「天気のよいこと、釣り場でひとに出会わぬこと、そのつぎかんじんなのは、やっぱり魚がよく釣れるということである」と述べ、さらに釣りを終えて帰宅した後でゆっくりつかる風呂、そして、風呂の後で、自ら釣ったヤマメを肴に飲む酒を挙げている。

 そして、「魚がよく釣れる」の中身については、「まあ十匹ぐらいは釣れてほしい。二十匹以上釣れればもう大漁である」と、あくまで謙虚である。

 ちなみに、『釣りの一日』が書かれたのは、戦後間もない昭和21年のことであって、「今日のためにとっておきの配給酒だ」という記述も見られる。日本全体が貧しくて、しかし自然だけはたっぷり残っていた時代に、「二十匹以上釣れればもう大漁である」という基準は、たぶん、かなり控え目なニュアンスとして語られているはずである。

 人や場所や時代によって、「良い釣り」の中身は変わって当然だが、食べきれる以上にヤマメやイワナを乱獲し、釣り場に仕掛けやその他のゴミを放置して自分だけが幸せ、というのが「良い釣り」でないことだけは、はっきりしていると思う。


 ここでは、僕が考える「奥多摩の渓で良い釣りをするための十箇条」をあげてみたいと思う。

 (1)奥多摩の渓で数を釣りたければ、腕よりも、脚でかせぐ。
 これは、基本中の基本ですね。渓流解禁日に、目の前で漁協のおじさんが放してくれた養殖ヤマメやニジマスを大量に釣って幸せ・・・という人には関係のない話ですが、奥多摩川・日原川の上流域では、ポイントからポイントへと脚を動かした量に、まさに釣果は比例する。
 谷を500m歩いた人の釣果が5尾なら、1km歩いた人の釣果は10尾、2km歩いた人の釣果は20尾になります。単純な事実です。
 もちろん、各人の“腕”によっても左右されるわけなんですが、イワナの場合は、実はよっぽど不用意にじゃぶじゃぶ音を立てて近づいたりしないかぎり、「そこにイワナがいて、食べられるエサをたらせば、釣れる」という魚です。なんにも難しいことはありません。
 ヤマメはもう少しシビアですが、それでも世間の人が思っているほど、難易度の高い釣りではないと思います。テクニックとか、腕前を論ずるよりも以前の問題として、イワナやヤマメが潜んでいそうなポイントを、できるだけ多く探る。そのために、脚を使う。それが、いちばんのコツではないかと思います。


 そして、そのためには、、、(2)脚をきたえる。
 必然的に、これが出てきますね。まあ、何も特別なことをしなくても、毎週のように渓流へ通っていれば、少しずつ脚の筋肉もきたえられますし、高捲きやヘヅリの技術も、アップしていくと思いますが。僕は、日常生活でも、地下鉄の二駅ぐらいなら歩くとか、バスに乗らないとか、意識的に歩く機会を増やしています。逆に、ふだんろくに運動をしておらず、すっかり萎えた脚で奥多摩渓流を歩くのは、危険極まりない。


 当然、、、(3)メタボは大敵。ということになります。
 余計な脂肪がついて体が重くなれば、それだけ足腰に負担がかかります。険しい谷を2〜3km程度釣り登ることを考えると、体重はなんとしても標準程度を保つ必要があると思ってます。実際に僕は、夏のシーズン中は、常に自分が渓流釣り師であることを自覚し(笑)必要以上にカロリーを摂取しないように気をつけていまして、標準体重マイナス1kgをキープするように心がけています。(年々それは難しくなるのだけど)


 (4)できるだけ人がいない谷へ入る。
 これも、まあ常識ですが、奥多摩川・日原川の中流域までは、土日祝日となれば、どこも人であふれているのが現状でして、なかなか思うようにはいかなかったりします。平日に仕事を休める人は、やはり平日に行くのが最も有効な対策だと思います。土日しか休めない、という人でも、次のようなポイントを押さえることで、意外と他の釣り人との競合を避けることができたりします。


 どういうことかというと、まず、(5)雨の日はチャンスと思え。
 カミナリを伴うような大雨はともかく、一日中降りつづくシトシト雨は、むしろ絶好の渓流日和である、ということができます。出不精な人や、「そこまでして釣りをしなくても」という、比較的釣りキチ度合の低い人たちがライバルから自動的に外れるので、その分あなたがフィールドを独占できる可能性が高くなります。もちろん、土砂崩れや、増水に十分注意しなくてはならないことは言うまでもありませんが。


 そして、(6)目的の川を含む、その地域の山全体を把握せよ。
 これです。たとえば、上記(5)とも関係することですが、ふだん水量が少なくて、雨の日にこそ釣果が期待できる場所や、逆に雨だと増水しすぎて釣りにならない、あるいは土砂崩れが起きやすく危ない、など、経験に裏付けされた情報を持っている人は強いです。
 また、たとえば、計画ではAという谷に入ろうとしたが、A谷にはすでに先行者が二人いるらしいので、急きょ3km先のB谷に変更したところ、そこにも先行者がいたが、B谷には、支流のC沢、D沢があるので、様子を見て、そのどちらかへ行けばいいと思い、B谷で釣りはじめた。・・・という風に、同じ山域のなかで、臨機応変の対応ができる人は、強いと思います。


 このように、一つの川、という単位ではなく、山全体を把握するのに有用なアイテムが、二万五千分の一地形図でして、(7)二万五千分の一地形図を活用すべし、ということになります。
 地形図は本来は等高線を読むものですが、渓流釣りでは、道を外れるときは、谷にいるはずなので、道迷いの心配はそんなにないです。よって、本来の地形図の使い方とは異なります。ではどう使うかというと、谷から谷への移動時間、入渓点から脱出口までの所要時間、などを体感で分るようになるために、地形図を見ながら歩く、ということです。

 ま、クルマでびゅんびゅん移動する人は、なかなかチャンスがないと思いますが。たとえば東日原の集落下で釣り始めたけど、ライバルが多すぎて釣りにならないから、急きょ倉沢谷の上流へ場所を変えてみよう、と思ったとき、どれぐらい時間のロスになるのか、仮に倉沢谷でも先行者がいた場合に、さらにお隣の川乗り谷へ移動すると、どれくらい時間がかかるか。移動した先で釣れる可能性はあるか(移動のロスに見合うだけの釣果が見込まれるか)などの情報を、体感でわかるためには、地図を見ながら林道を歩く、という経験を積むことがとても大事なように思います。


 (8)エサは、金に糸目をつけず、贅沢に用意する。
 もちろん、時間に余裕のある人は、お目当ての渓流に入る前に、別の川で川虫を採取すればいいですし、川虫こそ理想のエサという思想に反対するものではありませんが、良い釣りがしたければ、やはりエサ代に金を惜しむな、と。たとえば、前の釣行で使いかけのブドウムシしか用意してなくて、けっこう食いが立っていて、まだまだ時間もあるのに、エサ切れ、ではあまりにももったいないです。その場でカワムシを探す、といっても、日原川の上流域では、釣り針に刺せるほどの厚みのあるカワムシなんて、そんなにたくさんいませんよ〜。

 僕は本気で気合い入れて釣ろうという日は、ブドウムシ1箱(30匹)、イクラ1パック、ミミズ太郎1箱・・・これぐらい用意していきます。全部で1400円ぐらいになります。高いですが、その日の川のコンディションやポイントに応じて、エサを使い分けられるメリットは大きいです。ミミズは余ったら庭の花壇に放逐すればエコですし、イクラ、ブドウムシは冷蔵庫にしまっておけば、二週間ぐらいなら十分再使用に耐えます。


 さらにエサに関するウンチクをたれると、「朝夕のまずめは釣れるが、日中は渓流魚はエサを食べない」は、たぶん嘘。
 貪欲な渓流魚は、一日中エサをパクパク食べます。それぐらい貪欲でないと、厳しい環境の源流部では生き残っていけないのでしょう。
 そもそも朝まずめに活性が上がる、というのは、管理釣り場のトラウトや、ヘラブナはそうかもしれませんが、太陽光がほとんど届かない自然渓流では、むしろ早朝はサカナの活性が悪く、正午ぐらいからアタリが増える傾向にある、と、これは僕の体感ですが、そういう気がします。
 思うに、「日中は釣れない」というのは、ようするに、奥多摩川や日原川中下流域のように、人口密度の高い里川において、昼間は人間が多すぎるので、サカナが隠れてしまう、というだけのことだと思います。(9)だから、朝釣れなくても昼までねばって釣果が伸びることも多いことを知るべし。



 そして、(10)その川での当たりエサを見抜け。
 ヒラタやオニなどの天然のカワムシであれば、オールシーズンだと思いますが、市販のエサを使っている限り、ブドウムシで釣れる時期、イクラで釣れる時期。明確に分かれますね。「同じ川で、こんなに違うんだ」という体験を一度自分でしてみるのがいいと思います。


 (12)釣りの前日は、6時間以上睡眠をとるべし。
 釣りにいちばん必要なのは、たぶん集中力ではないでしょうか。川でこけないで、無事帰還するためにも、集中力こそが重要になります。睡眠不足では、これらの集中力をいかんなく発揮することができません。・・・まあ、釣りの前日になると、興奮して一睡もできない、というのは、矢口先生の漫画だけでなく、現実にありがちな話だったりするわけなんですが・・・。


 (13)渓流釣り師は、登山者、沢登りの人から学べ。
 ご存知のように、渓流釣りのかなり多くの部分に、山登り、沢登りの要素が入って来ます。とくに、釣り場が年々「遠くなっていく」今日においては、ネイティブに近い山女・岩魚にめぐり会うためには、どうしてもプチ沢登りをしなければなりません。
 たとえば雑誌なんかも、釣りの雑誌よりも、山岳系の雑誌(ヤマケイとかそういうの)の方が見るべきものが多かったりします。ショップも、上州屋よりも、好日山荘や秀山荘の方で、渓流釣りに役立つ装備が見つかったりします。


 あれ、十箇条のはずが、十三箇条もある。
 あなたの“十箇条”も教えて下さいね☆


 

平成24年5月記






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